2025年6月13日、トヨタと中国の広州汽車集団との合弁ブランドである広汽トヨタ自動車(以下、GACトヨタ)は、すでに発表されているモメンタ(momenta)、ファーウェイ(Huawei)との協業に加え、新たにシャオミ(Xiaomi)との提携を発表した。来年第一四半期に発売予定の上級セダン「bZ7」には、中国テック大手3社の技術がそろい踏みで搭載されることになる。急速に現地化を進めるトヨタの戦略「China R&D 2.0」が、いよいよ明確になってきた。
現地テック大手3社と同時に提携する初の合弁ブランドに
「2025 Technology Day」イベントで、GACトヨタが今後の電動化、ソフトウェア開発、インテリジェントモビリティを加速するためのロードマップおよび戦略を発表した。モメンタ、ファーウェイとのパートナーシップを深化させるとともに、新たに家電・スマホメーカーの大手シャオミとの提携が明らかにされたことで現地メディアもざわついているようだ。中国市場にローカライズしたトヨタの戦略「China R&D 2.0」の一環であり、GACトヨタは次世代EVおよびPHEV/EREVを、中国最大手のテックパートナーとともに開発していく。

広州市に本社を置く広汽トヨタ(通称、GACトヨタ)。2004年にトヨタと広州汽車集団の合弁会社として設立された。
テック大手3社との共同開発となる最初のモデルが、2025年4月の上海モーターショーで公開されたEVフラッグシップセダン「bZ7」だ。2026年3月に中国専売車として発売される予定である。
かねてより協力関係にあるモメンタ、そして上海モーターショーで明らかになったファーウェイのスマートコクピット採用まではすでに多くの業界人が知るところではあったもが、現地メディアも驚いたのがシャオミとの提携だ。シャオミは家電・スマホなどのスマートデバイス大手であるが、2024年より完成車メーカーとしてEV事業にも参入。発売した「Xiaomi SU7」が爆発的なヒット作となったのは記憶に新しい。新工場も建設されて間もなく新型クロスオーバー「Xiaomi YU7」の生産も開始される。いうなればトヨタにとって商売敵でもあるのだが。

「bZ7」は新開発のデジタルシャシーコントロールプラットフォームを初採用。上質な乗り心地と高速ハンドリングを大幅に向上するという。
シャオミとのパートナーシップ=クロスデバイス領域
両社が協力するのは、車体の開発ではなく、クロスデバイスと呼ばれる領域だ。具体的には、シャオミのスマホ、タブレット、スマートスピーカーなどのデバイスが「bZ7」と連携、シャオミのAI+IoTを介して自宅からクルマまでシームレスにつながるようになる。文字どおり「クルマのスマホ化」だ。ちなみに今回の提携は、シャオミにとっても巨大自動車メーカーと手を組む初の事例となる。

Xiaomiとの提携はスマートデバイスがキーツールになる。自宅からクルマに至るまでシームレスにつながる世界が実現する(写真はイメージ)。
ファーウェイとのパートナーシップ=スマートコクピット領域
ファーウェイについては別記事でも紹介しているが「bZ7」には、最新のコクピットソリューション「HarmonyOS 5.0」が搭載される。ここにはテンセント(Tencent)と共同で開発した新世代のAI音声アシスタントも組み込まれる。

ファーウェイの「Harmony OS」にテンセントのAI音声アシスタンスも組み込まれる。
Momentaとのコラボレーション=E2EのADASにおよそ50の新機能追加
すでにbZ3Xにも採用されているE2EのADAS、インテリジェントドライビングシステムは「6.0」にアップデートされ、約50の新機能が追加される。複雑な運転環境を理解し、音声とジェスチャーベースによる入力、AIシミュレーショントレーニングデータに基づく予測型運転支援も盛り込まれる。

高速道路から市街地まで“END to END”で運転支援を行う究極のADASは「bZ7」でさらに性能アップ(写真はbZ3X)。
独自の進化を遂げる中国市場。郷に入れば郷に従う
これら3社のテック企業とともに、GACトヨタは、さらなるコックピットの知能化と先進運転支援システムの高度な統合をめざすという。2028年までには、ドライバーの姿勢、疲労、視線方向を分析するセンサーも組み込まれ、車両の動きとドライバーの状況がリアルタイムで連動する「共進化型キャビンドライビングモデル」と呼ばれる概念の実用化も目指しているようだ。それが本当に実現すれば、ドライブの概念が根本から覆ることになるだろう。
トヨタは「China R&D 2.0」戦略の下、中国で販売する車両の設計と開発を現地チームに移している。すでに次世代のカムリ、シエナ、ハイランダーなどのプロジェクトが進行中だ。この体制で開発され今年3月に発売された「bZ3X」は、合弁ブランド車として久々のヒットとなり、直近の5月単月だけでも4344台を販売した。これは、合弁ブランド車としてトップの成績である。東風日産の「N7」も同月には3034台を販売し、中国主導で開発したクルマによって業績を回復しつつある。長らく中国では日本車の不振が続いていたが、郷に入っては郷に従うことで苦境を脱する戦略が成功しつつあるようだ。